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株式会社Huuuu代表取締役 徳谷柿次郎氏/地方都市で人との出会いが循環する場を作る

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株式会社Huuuu代表取締役 徳谷柿次郎氏/地方都市で人との出会いが循環する場を作る

株式会社Huuuu代表取締役 徳谷柿次郎氏/地方都市で人との出会いが循環する場を作る

むすぶしごとLAB.は第一線で活躍する経営者や専門家をお招きし、地方での仕事の作り方や働き方のヒントを探すための実践的な学びと交流の場です。2022年度第2回目の講座では、株式会社Huuuu代表取締役の徳谷柿次郎さんにご登壇いただきました。

徳谷さんは、編集プロダクションを退職後、株式会社バーグハンバーグバーグで「ジモコロ」編集長に就任。「ジモコロ」で全国を取材するうちに、地方の暮らしが抱える課題や面白さにのめり込んでいきました。

そして株式会社Huuuuを設立後は「ジモコロ」の編集長を続ける一方、長野県に移住し、長野市を中心とした店舗やオフィスを運営しています。
今回は地方で事業を続けていく方法や、人材の集め方についてお話を伺いました。

変動の時代だからこそ「わからない」ことを面白がる

株式会社Huuuuは、全国の面白い話題やカルチャーを取り上げる編集チーム。
業務内容はメディアの運営や記事の企画にとどまらず、リアル店舗・コミュニティオフィスの運営、出版事業など多岐にわたります。

企業理念「人生のわからない、を増やす」には、取材を通してわからないことを捉え、可視化していくという思いが込められています。特に昨今はVUCA(Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性))と呼ばれる、複雑で変化の激しい状況。社会や企業が抱える問題に対して、編集的な目線から一緒に考えていくことが求められる場面は多いと語ります。

「『ジモコロ』の取材では、一次産業の仕組みや流通など、知れば知るほど、また知らないことが増えるような複雑で深みのある話題に接してきました。
この時の経験が、情報発信を通じて地域の問題を改善したいと考えるきっかけになっています」

取材先だった「面白い」地域を自分たちの拠点にする

徳谷さんは、「ジモコロ」の編集長に就任するまで、地方での暮らしについてあまり知らなかったそう。

東京と地方を往復しながら取材を続けるうちに、地方の暮らしや事業のあり方に特徴を見出しはじめたと言います。

例えば、
・地方では家賃が安いので、利益を上げることにこだわらずに好きなことがしやすい
・自分が行動を起こしたときに、街が変化する様子が手に取るように身近に感じられる
・良くも悪くも事業にかかったコストと周りからの反響が必ずしも一致しない
など。

これらの地方の暮らしや地域特有の面白さに触れ、徳谷さんは少しずつ地方での暮らしの面白さに惹かれていきました。次第に東京で満員電車に乗って通勤する時間に耐えられなくなり、地方に拠点を置いた編集者になることを決意。

長野県に移住後は、長野と東京の二つの拠点を持ちながら活動中です。東京にいるメンバーも月に1、2度長野を訪れ、山菜採りやきのこ狩り、野菜の収穫などを体験しながら交流していると言います。

長野の3拠点で関係性が循環する場をつくる

Huuuuの長野チームが運営する「シンカイ」は、長野市善光寺の東参道にある築120年を超える雑貨・土産物店。

東京から長野に引っ越したものの、徳谷さんは編集者という仕事柄、日々全国を飛び回っているので地元の人々との関係性をあまり持てずにいました。

そこで、Huuuuとして地域と交流しながら少しでも雇用を生む場所として、シンカイは考案されました。ここでは、Huuuuが取材で訪れた全国各地の雑貨を販売しているほかにも、さまざまなイベントを開催し、地域の交流の場になっています。

「ものづくりをしている方を取材後、そのまま作品を仕入れさせてもらえれば、すぐにリアルショップのシンカイで販売できます。こうしてHuuuuと全国の取材先の方との関係性を続けられるのは、とても嬉しいですね」

2つ目のHuuuuが運営する場は、シェアオフィス「窓/MADO(マド)」。
コワーキングスペースとオフィスの中間の立ち位置を目指した、外部の人が出入りできる新感覚のオフィスです。

Huuuuのオフィスという性格が主でありながらも、週に2〜3日数時間デスクワークをしたい人向けに、月額会員も募っています。

「窓/MADO」では、30歳以下に蔵書を貸し出す「U30図書倶楽部」を企画。利用無料で、本の返却時にSlackで感想を共有することで、図書倶楽部メンバーや会員とのコミュニケーションを取れるそう。

社会人との接点を求めている大学生などの比較的若い人たちと、「窓/MADO」の会員とのコミュニケーションが広がることを期待しています。

「メンバー同士の交流から暮らしの情報や人間関係が循環していくような場にしたい。そういった『窓/MADO』の価値観に共感してもらった方に会員になってもらっています」

コロナ禍を経て、東京から長野への移住者が増えたタイミングでの開業ということもあり、「窓/MADO」には多様な職種のメンバーが集結。クリエイターとの出会いの場になっています。

そして2022年10月、「シンカイ」と「窓/MADO」から徒歩圏内の距離に、スナック「夜風」が開店。取材で出会った全国各地の地酒や、Huuuuの活動と関係のあるローカルプロダクトを中心に取り扱っています。

「夜風」のある権堂商店街は長野市の繁華街。一見入りづらい雰囲気のお店も多い昔ながらの街で、移住者や地元の若者が集う場を作りたいという思いが店舗作りに込められています。

このお店では、気軽な食事とお酒を楽しめる店というこれまでのスナックの定義に加えて、誰かと落ち着いて話したり、1人でゆったり過ごしたりして過ごす心地よさを追求しています。

「『シンカイ』、『窓/MADO』、『夜風』は、すべて徒歩でアクセスできる位置にまとまっています。『窓/MADO』の会員さんに仕事帰りに『夜風』に寄ってもらい、その場で出会った人が新たにコミュニティのメンバーになって関係性が生まれる、というような好循環ができることを期待しています。『ジモコロ』の取材では、地方の暮らしを取材して、依頼元の東京の会社から報酬を得ている立場。だからこそHuuuuが得た報酬を、長期的に持続できる方法で地方に還元したいと思っています」

心地良い理想のチームを作るために「弱いチーム」を組織する

徳谷さんは、長野市でのこれらの場の経営について、収支がゼロに近くなるという意味で「トントンビジネス」と呼んでいます。実は、Huuuuの「トントンビジネス」は、場の継続と組織の仕方の両観点から考えて、真にサステナブルな経営方法だということがわかってきたそう。

特徴的なのは、長野の3拠点を支える店主やスタッフの多くが、徳谷さんに意欲や熱意を買われた若い世代という点。

「未経験でも素直な人柄なら、周りの社員が教えてくれるHuuuuのような仕事環境では、すぐにノウハウを吸収して活躍できます。その点では、未経験のメンバーが多い『弱いチーム』を組織するのが、結果として理想のチーム作りにつながるのだと思いますね。チーム内での阿吽の呼吸を生むためにも、スタッフの居心地の良さや距離感、働く環境は非常に重視していますね」

講義後半の受講者とのやりとりでは、

「将来、政治的にも倫理的にも状況が変化して、好きなことができないという事態になる可能性もあります。助成金などの支援が受けられる今こそ、好きなことで事業を立ち上げることをおすすめします」

とエールを送りました。