REPORT
青果ミコト屋代表 鈴木鉄平氏/野菜を届けながら「本当に豊かな生活」と向き合い続ける
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青果ミコト屋代表 鈴木鉄平氏/野菜を届けながら「本当に豊かな生活」と向き合い続ける
むすぶしごとLAB.は第一線で活躍する経営者や専門家をお招きし、地方での仕事の作り方や働き方のヒントを探す、実践的な学びと交流の場です。2022年度第1回目の講座では、青果ミコト屋代表の鈴木鉄平さんにご登壇いただきました。
青果ミコト屋は2011年に鈴木鉄平さんと高校時代の同級生、山代 徹さんの2人で創業した八百屋。自然栽培農家のもとで農業や農作物の流通について学んだのち、自然栽培による野菜の仕入れ、宅配販売を行う青果ミコト屋を開業しました。
今回は会社員として勤務していた経験から、「豊かな暮らしとは何か」について常々考えてきた鈴木さんに、青果ミコト屋で実践する働き方や商品展開、会社の組織の仕方について伺いました。
畑と食卓の距離を縮める仲人のような八百屋になりたい
「青果ミコト屋」を開業する以前の鈴木さんは、営業担当のサラリーマンでした。時には「自分だったらあまり欲しくないもの」をお客さんに売りこむこともあり、日々の仕事に対して疑問を抱くようになったそう。
そして退職後はお金に換算されない豊かさのある生活を知りたいと思い、アジアでバックパッカーの旅に出発。
ここでネパールを旅した経験は、もともと持っていた食への興味が食べ物を作ることを勉強したいという思いに繋がり、農家に通って農業を勉強することに。
そして、農作物の流通を勉強するうちに、多くの農家は購入者の声を聞く機会をほとんど持っていないと気がついたと言います。
「市場では農法や各農家さんのこだわりよりも、見た目で野菜の良し悪しが判断されています。私が一番課題だと感じているのは、野菜が生産される畑と、消費者の食卓との間に距離があることです。消費者は、手に取った野菜が誰に、どのような方法で作られているのかがわからないので良い野菜を選べず、農家さんは購入者からの反応が乏しいのでやりがいが感じにくい。消費者と農家さんの心理的な距離を互いに縮められるような八百屋を作りたいと思いました」
身近な課題に野菜を通じて取り組む店舗づくり
青果ミコト屋は、日本各地の農家を訪ねて厳選した野菜をセットにし、会員に届けるネットショップの運営のほか、横浜市にある実店舗「Micotoya House」にて野菜を販売。鈴木さんが「本当に美味しい」とおすすめする野菜の中には、一般的なスーパーでは見かけない在来野菜があることも。
在来野菜とは品種改良される以前の、地域で昔から育てられてきた野菜のこと。市場で流通している野菜の多くは品種改良されているので、第一世代での収穫量と品質は安定していますが、採種しても次の世代は上手く育ちにくいのが特徴です。
一方で在来野菜は、採種と生育を繰り返して地域で育てられ続けているので、その土地の気候風土や環境に適応した個性的な特徴を持っています。
「京野菜」や「江戸野菜」と呼ばれてブランド化されて守られている在来野菜もある反面、多くの在来野菜は認知度が低く、生産を担う農家も少ないそう。
「在来野菜は形だけでなく、味も個性的。そういったばらつきというか個性があるのが在来野菜の特徴なので、大量生産には不向きです。形にばらつきがあることで流通コストがかかるので普段はあまり目にしないのですが、青果ミコト屋は自分たちで仕入れをおこなっているからこそ、在来野菜を紹介しながら野菜のユニークさ、奥深さを伝えていけたらと思っています」
また「Micotoya House」では、こだわりのつまった野菜以外に、規格外品の野菜や副産物などの素材を使用したオリジナルアイスクリーム「KIKI NATURAL ICECERAM」も販売中。
形が崩れた紅芋や潰れてしまったラズベリー、カフェで余ったエスプレッソなどを使った独創的なフレーバーは、どれも材料が手に入る期間のみの限定品。時期によって様々な種類を楽しめます。
「ふぞろいの食品は加工に手間がかかります。特に飲食店ではいつも同じ料理の味を安定して提供できるように、個性のない野菜の方が重宝されます。そのため規格外品や形が崩れた野菜は品質には問題ないにもかかわらず、形や見た目の問題で、市場価値ががないとされている食材はたくさんあるんですね。そこで本来廃棄される食材を美味しく食べながら、フードロスの問題を解決する方法を考え始めて、アイスクリームを作ることにしました」
鈴木さんは美味しい野菜を探して全国の農家をめぐっている間、傷がついたり形が悪かったりしたために捨てられる食材をたくさん目にしたそう。そして、アイスクリームは子供から大人まで口にする、手軽でポピュラーな存在。だからこそフードロスの問題と結びつけることで、より多くの人と一緒に負うことなく、課題解決に取り組めるのではないかと語りました。
コミュニケーションを通して「買う責任」を感じてもらえるように
「Micotoya House」がオープンしたのは青果ミコト屋が活動を始めてから十年後のこと。
以前はキッチンカーを拠点に、全国の農家を巡って野菜を仕入れ、卸しや個人向けの定期宅配、イベントへの出店を中心に活動していました。「Micotoya House」を展開することで、野菜のやり取りを通じたコミュニティーの場としての八百屋の機能を提供できていると言います。
「『Micotoya House』ではお客さん自身が直接野菜に選び、必要な量を測って、包装しています。購入するまでに野菜と触れ合う一つ一つの工程が、消費者であるお客様と野菜との心理的な距離を縮め、野菜のフードロスを減らすことにつながると考えています」
また店舗スタッフが野菜の食べ方や料理のコツ、個々の野菜に関する背景知識を購入者に伝えることで、自宅に持ち帰ったも大事に調理して食べてもらっていると感じているそう。
さらに環境に配慮した取り組みとして、「Micotoya House」ではプラスチック包装を一切使用しないことにしています。もちろん野菜は鮮度が重要な食べ物なので、プラスチック製のフィルムを使わない代わりに、水で湿らせた紙で包むなど、一工夫加えながら紙を使った簡易な包装で提供しています。
断面から乾燥してしまうような野菜については、「できるだけ早く持ち帰って、調理してほしい」と購入者に直接声かけを実施。「Micotoya House」では購入者ひとりひとりに買う責任を理解してもらえるよう、店頭でのコミュニケーションを大事にしていると言います。
スタッフの得意なことを伸ばして、チームで活躍してもらう
青果ミコト屋は、「Micotoya House」を展開するにあたり、スタッフを増員。スタッフそれぞれの得意なことを担当できるよう、現場では役割分担をしています。
「ミコト屋を始めてから5年間くらいは、ビジネスとしてなかなか上手くいきませんでした。当時のことを振り返って考えると、売上や商売としての成功だけを考えている人は、事業が軌道に乗れない苦しい時に『それでも続ける』という強い意志を持っていられないと思います。私自身が苦しい場面を乗り越えられたのは、多くの農家さんに応援していただいていた使命感があったからです。だからミコト屋にいるスタッフは、一生懸命働ける原動力や好きなことを持ち続けられるように、サポートしたいですね」
実際に「Micotoya House」で働くメンバーの中には、料理人としての独立を目指しながら、ミコト屋でアルバイト経験を積んでいる最中というスタッフも。「Micotoya House」での業務以外に、店舗で販売している野菜を使った限定ランチを提供しているそうです。
そしてライティングに興味のあるスタッフは、SNSでの野菜の紹介や産地レポートを担当。「ミコト屋という会社で働いている意識ではなく、自分で行動し結果につなげられるような、スタッフそれぞれのスキルを高める場と捉えてもらえる環境づくりを目指しています」と語りました。