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株式会社カクバリズム代表取締役 角張渉氏/仲間と創る独自の企業価値、将来を見据えた新たな企画づくりも

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株式会社カクバリズム代表取締役 角張渉氏/仲間と創る独自の企業価値、将来を見据えた新たな企画づくりも

株式会社カクバリズム代表取締役 角張渉氏/仲間と創る独自の企業価値、将来を見据えた新たな企画づくりも

むすぶ しごと LAB.は、第一線で活躍する経営者や専門家をお招きして自分らしい仕事のつくり方や働き方のヒントを探る実践的な学びと交流の場です。2023年の第4回の講座では、インディペンデント音楽レーベル「カクバリズム」代表取締役の角張渉さんご登壇いただきました。

角張さんは大学在学中から「カクバリズム」を運営し、2002年に「カクバリズム」を設立。YOUR SONG IS GOODやSAKEROCK、星野源、キセルなどコアな音楽ファンを魅了する多数のアーティストを輩出してきました。事業としてはCD・レコードの販売や所属アーティストのマネージメントなどを展開。講座では設立から約20年を振り返り、経営やマネジメントで大変だったことやこだわりをお伺いしました。

在学中から試行錯誤でインディーズレーベル運営

子ども時代から音楽が好きだったという角張さん。「好きだったパンクとかハードコアというジャンルには『自分のことは自分でやれ』みたいな感覚があって、高校生のころから自分らで小さい規模でレーベルをやることに憧れがありました」とカクバリズム設立に至るまでの自身の背景を振り返ります。
大学に進学した角張さんはライブハウスで働き始め、インディーズレーベルの設立に向けて動き出します。19歳の時にライブハウスで出演していたバンドや友人のバンドに声をかけ、CDを制作しました。このCDは約5千枚が売れたと言います。

角張さんはCD・レコード専門店「ディスクユニオン」でもバイトをしていました。バイト先の理解もあり、自分で制作した作品を店内で販売。店頭で働きながら、作品を通じて来店客とのコミュニケーションも重ねていきました。この時に人気アーティストの作品の売れ行きも注視し、客層や一緒に購入するものなどマーケティングに活かせそうな情報を収集していたそうです。

「発売前の音源をかけて、お客さんがカッコいいと反応してくれるかどうかリサーチみたいなこともできました。ここで働いたことで仕入れのバランスも学びましたね」と下積時代を回想します。

カクバリズムの運営を開始した当初は、資金繰りに関しても探りながらのスタートだったそうです。例えばCDを販売する場合、発売から収益が実際に手元に入るまでに数ヶ月かかりますが、支払タームはその前の時期にくるそうです。支払うべきタイミングで支払えるようにするため「適切に借りるのは非常に大事」と受け止めているそうです。

 

実績づくりや活動継続にも四苦八苦 先を見通した計画を


「音楽って何が当たるか分からない。PVが良かったのか、歌が良かったのか、タイミングが良かったのか、分からないからこそ全部やっていかない」と率直に語る角張さん。絶対売れるという自信があったとしても営業で成果が上がるとは限らないという。視聴者から良い反応が上がることで徐々に実績となり、メディアからの反応も良くなることを体感し「音楽業界だけではないと思いますが、3年くらいかかるなと感じています」と話しました。

角張さんはアーティストが軌道に乗ったのちの活動継続についても試行錯誤しています。アーティストの年齢が上がるにつれてファン層の年齢も上がることや、アーティストが家族と過ごす時間の確保にも考えを巡らせます。「バンドをいかに継続して、いかにさらに良いものを作っていくか。さらに利益をお互い様くらい落とせるようになるか四苦八苦しています」と語りました。

継続の大変さを語りながらも、角張さんは「自分たちで、ムーブメントをつくり出しているという面白さはありますよね」と力を込めます。若いスタッフが新しいバンドの営業に取り組み、ラジオで新曲のオンエアに漕ぎ着けたとうエピソードを紹介し「大きく稼いだわけではないが、すごく嬉しそうだった。そういう瞬間があるから一緒に成長するのは必要だと思います」と語りました。

先を見通す重要性も強調しました。角張さんによると、カクバリズムに所属するアーティストは、1〜2月の活動量がほかの季節に比べて少なくなり、春頃から活動が増え始め、夏にピークを迎えるそうです。

「1〜2月はライブが減る時期です。ライブでは、物販やプロモーションもするので、活動としてはこの時期は下がりがちになり、売上も下がります。これはもうやめようと皆んなに呼びかけはしています」と指摘。目の前の仕事に精一杯になることで、将来的を見据えた計画を考え続けることが難しいと言います。スタッフとも先を見通した企画づくりの必要性を共有しているそうです。

 

変わらない独自性、変えていく事業展開


アナログを扱うレーベルとして知られるカクバリズム。そのきっかけについて「アナログを始めた2002年ごろに渋谷系やDJブームがあったんですけれど、アナログが終わり始めていた時期でもありました。ただ、まだアナログってカッコいいよねという雰囲気もありました。当時は、そう思っている人たちにとって目立てれば良いやと思ってアナログだけを出すレーベルにしようと発売を始めていました」と説明。独自性を持つ重要性についても指摘しました。

新型コロナウイルス流行で音楽業界も大きな影響を受けました。ただ、角張さんは世の中の動向を確認しつつも、自分らしさやスタイルを持って周囲に囚われ過ぎない姿勢を見せます。

「災害など大きな出来事があると、自分たちがやってきたことが『本当に良いのか』と自己評価がブレそうになることが自分自身にもアーティストにもある。しかしコロナ禍においては、しっかり作って、自分たちがカッコいいと思うものは変わらなくて良いんじゃないと思っていました」。

また、カクバリズムとしてコロナ禍の影響を大きく受ける中、励みとなったのはアーティストから送られてきたデモテープだったそうです。「夜中1時くらいに車の中で聴いたんですけど、めっちゃ良いじゃんと思って興奮しました。その時にまだやれるなと思って、生かされました」と共に働くアーティストへの感謝を滲ませました。

20周年を超えた今、角張さんは今後の展望について「自分がフレッシュと思えることを探っていきたい」と話します。

「いかに自分が楽しい仕事にしながら売上を伸ばしていくか、社員が増えていく中で視野を広げていかないとと思う」。これまでは音楽の配信やCD、レコード、ツアー、フェスといった方法で勝負してきたカクバリズムだが「もう少し外部的な音楽との関わり方を」と角張さんは考えます。

「例えば街で流れる音楽やゲーム、舞台音楽など、メインなものばかりでない音楽制作は視点を変えればいくらでもできる」と新しいチャレンジに意欲を見せていました。