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伊良コーラ代表 コーラ小林氏/2021年度第2回 自分だけのブランドストーリーを武器にする

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伊良コーラ代表 コーラ小林氏/2021年度第2回 自分だけのブランドストーリーを武器にする

伊良コーラ代表 コーラ小林氏/2021年度第2回 自分だけのブランドストーリーを武器にする

むすぶしごとLAB.は第一線で活躍する経営者や専門家をお招きし、地方での仕事の作り方や働き方のヒントを探すための実践的な学びと交流の場です。2021年度第2回目の講座では、「伊良(いよし)コーラ」代表のコーラ小林さんにご登壇いただきました。

伊良コーラは、東京都下落合に自社工房を持つ世界初のクラフトコーラ専門店。既存の飲料メーカーが販売するコーラ味のイメージとは大きく異なる、スパイスが効いた爽やかな味わいが特徴のコーラを製造・販売しています。

今回は、趣味であるコーラ作りが生業になっていく伊良コーラの成り立ちを辿りながら、同業他社と差別化するための戦略や、好きなことを仕事にして挑戦し続けている小林さんの想いを伺いました。

コーラマニア、コーラ職人になる

もともとコーラ愛好家で、世界中のコーラを飲み歩いていたという小林さん。
自分でコーラを作るようになったのは、偶然インターネットで100年以上前に創られたコーラのレシピを見つけたのがきっかけでした。

はじめは趣味としてコーラ作りを始めましたが、2年半試行錯誤しても納得できるコーラを作れなかったと言います。

もっと理想のコーラに近づけることができないかと悩んでいたさなか、和漢方職人で工房「伊良葯工」を構えていた祖父・伊東良太郎さんが逝去。工房の片付けをしていると、幼いころに祖父の調合を手伝っていた記憶が蘇ったそう。そこで、ふと祖父が遺した道具やレシピがコーラ作りに活かせるのではないかと閃きました。

それから、家族から聞いた祖父の製造エピソードを参考に作業工程を見直し、和漢方を用いてコーラを製造。すると試飲した会社の同僚から「とても美味しいから売ってくれないか」と頼まれるほど、コーラの味は良くなったそうです。

「このコーラをすぐに世の中に出さないと」というわくわくした思いから、小林さんは2018年に青山のファーマーズマーケットで移動販売をスタート。

それからは、土日はマルシェに出店し、平日は会社員として働くダブルワークの日々。次第にコーラ販売が盛況となり、ダブルワークではやり切れなくなったタイミングで小林さんは退社を決意。マルシェに出店してからおよそ半年後のことでした。

コーラ職人は自分だけの仕事

大手広告代理店に勤めていた小林さんが起業を決意したのには二つの理由がありました。

一つ目は映画館へのコーラの卸売りの仕事が入ったこと。マルシェでの売上が落ち込んだとしても、安定した収入が見込めるようになりました。この経験から「定期的な収入が無いことがストレスにならないように、新規事業が軌道に乗ってから起業に踏み切る方が良い気がしています」と言います。

もう一つは起業の相談をした会社の先輩から「今すぐ会社を辞めた方がいいよ」と言われたこと。小林さんの状況を中立な立場から考え、助言してくれたことが後押しになったそう。

「会社で働いていた時は自分よりすごく仕事ができる人もいたから、その仕事をするのは自分でなくてもいいんじゃないかと思う時もありました。企業というのは、誰がやっても上手く仕事が回るようにできる仕組みでもありますからね。一方で、個性を最大限に発揮しないとうまくいかないのが自営業。コーラ職人は世界で自分だけの仕事なんです」

最初のコーラ作りから、イベント出展を経て、伊良コーラ総本店下落合をオープンし、渋谷店を開店。それまでの「怒涛の6年間」だったと小林さんは語ります。

「起業は大変そうだと思うかも知れないけれど、自分の場合は趣味の規模が大きくなっているだけなので、それほどハードルは高くありませんでした。結局は行動するか、しないかに尽きます」と小林さんは繰り返しました。

クラフトコーラ一本で勝負できる訳

今日のコーラ販売は世界的メーカーが市場を席巻しています。そのため、「コーラは有名な飲み物だけど工場以外で手作りする方法は知られていない。クラフトコーラは市場としてポッカリ穴が空いている」状態だったと小林さんは振り返ります。

最近では、独自のクラフトコーラを販売する同業他社も出現していますが、ほとんどのクラフトコーラが工場で量産されているのに対し、伊良コーラは工房での手作り製造にこだわることで差別化できているそうです。

さらに、工房の隣に直売所を設置したり「伊良コーラ 渋谷店」のような実店舗を展開したりすることで、B to Cの需要にも応えられていると言います。

また「伊良コーラ」だけが持つ個性をしっかりと伝えるために、小林さんのルーツである和漢方工房「伊良葯工」に根差す独自のストーリーを押し出しています。和漢方を用いた商品開発は、コーラの起源が漢方を学んでいたアメリカの薬剤師による発明だった歴史的背景とも偶然に合致してブランドの強みに。

「自分には『伊良葯工』という家業があるので、その武器をいかに磨き上げて強くするかということを考えています」

ブランドコンセプトの表現は、お客さんに伝わりやすいよう、力を入れて工夫。たとえば店舗デザインでは、薬瓶をお客さんに見える場所に設置し、和漢方店がルーツであることを表現。ブランド名である「伊良コーラ」やロゴデザインも祖父が営んでいた「伊良葯工」がイメージのもとになっています。

やりたいことを形にするために

講義の最後には、参加者からの質問タイムが設けられました。

アイディアはあるけどなかなか実行に移せない、と話す参加者には、「行動しなきゃと思っても結局やれないじゃないですか」と前置きをしたあと、やることを先延ばしにしないために「期日と一緒にやることをメモして、すぐに自分の予定に入れる」ようにしていると言いました。

さらに、「目標を分解して、やることをよりシンプルな動きに分解する。具体的なアクションプランを立てて、できるところから実行してみては」と仕事術を教えていただきました。

「経営面で上手くいかなかったことはありますか?」という質問には「メンバー確保のことは後悔していますね」としたあと、人材をしっかりつなぎ留められなかったエピソードを引用。入社してほしいと思った時点でしっかり伝えておけばよかったと思い返していました。

また「伊良コーラ 渋谷店」のショップデザインについて、他にも面白いやり方があったのではないかと回想します。渋谷店は「不思議な空間にしたかった」という小林さんの意向により、青い床やネオンサインでブランドの世界観を表した店舗。

「伊良コーラが入る前は雑貨屋だった物件なので、今考えれば元々の内装を生かしたデザインにしても面白かったかもしれないです。新装したことでブランドコンセプトを示すことはできたけれど、もっと物件のポテンシャルを活かせば費用も抑えられたのではないか、ともと思います」

受講者からの質問で、二号店の場所を渋谷に決めた理由を問われると、伊良コーラに馴染みのある場所だからだと答えました。

キャットストリートにある渋谷店は、小林さんが最初にコーラ販売を始めたファーマーズマーケット会場のすぐ近く。
ブランドの歴史や物語は、お金では買えない固有のもの。だからこそ、「どうしてその場所を選んだのか、語れるような場所に店を構えるべき」だと話しました。

さらに、ブランドにまつわる物語を商品や店舗設計に落とし込んでいくと、商品のファンを作ることにもつながるそう。

「好きなことを仕事にしたら、好きなことが嫌になることはありますか?」という質問には、「嫌いになったことはないですね」と回答。「仕事に慣れて新鮮さがなくなることはあります。でも挑戦し続ければ毎回新しい楽しさが生まれてきます」と笑顔で語りました。