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渋草柳造窯 戸田柳平氏/2020年度第2回 革新的なしごとをつなぐ〜新たな価値観の創出とは〜

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渋草柳造窯 戸田柳平氏/2020年度第2回 革新的なしごとをつなぐ〜新たな価値観の創出とは〜

渋草柳造窯 戸田柳平氏/2020年度第2回 革新的なしごとをつなぐ〜新たな価値観の創出とは〜

専門家による講義や対話、フィールドワークなどを通して、これからの地方での仕事の作り方や働き方のヒントを探すための実践的な学びの場、むすぶしごとLAB.。2021年度第2回目は、渋草柳造窯の代表戸田柳平氏が登壇。

飛騨高山で約180年続く窯元・渋草柳造窯は、会社の代表として経営・企画を行う戸田氏と作家として7代目渋草柳造を継ぐ弟・鉄人氏からなる。携わる仕事は、飲食店向けの食器から、作家作品の発表、アパレルのディレクション、映像作品の監修など幅広い。

「伝承は衰退。伝統は革新の連続」という家訓の元、日々革新的な仕事を生み出し続ける戸田氏に、代々続く家業を継承するという事へ思いや、自分のやりたい事を仕事にしてきた背景を伺った。

継ぎたくなかった家の仕事

渋草柳造窯・6代目である父の元に長男として誕生した戸田氏だったが、大学卒業後は「家を継ぐのが嫌すぎて海外逃亡」をする。絶対に連れ戻されない学校に進学すべく、イタリアに語学留学。教授が経営するデザイン事務所にも出入りをし、日本には帰らない覚悟だったらしい。

家業継承のきっかけは、当時渋草柳造窯の社長をしていた叔父の死。会社役員だった父が16億円の負債を引き継いだ為だ。留学を取りやめ帰国した戸田氏は、約2年半ほど家業の再建のみに全てを注ぐ生活を送ったそうだ。

「ここまでして立て直したならやるしかない。イタリアへはいつか仕事で戻る」

家業が落ち着いた後も、イタリアには戻らず日本で伝統工芸の仕事に取り組む事を決意した戸田氏は、価格競争でしか勝負出来ない観光客向け商品を95%カットするなど、思い切った改革に取り組む。また、食器や花器の卸の他にも、服飾品やアートワークの発表、空間づくりや飲食店のメニューのアドバイス、映像制作など、監修・ディレクションといった「作らない仕事」の幅も広げていった。

現在の渋草柳造窯では、アートワーク・ディレクション・プロダクトの仕事を明確に分けて捉えており、それぞれに対して、商品を作る「渋草柳造窯」、7代を継いだ弟・鉄人氏の作家名である「7代目渋草柳造」、ディレクション等従来の伝統産業の枠の外の仕事を請ける「四二九三®」と異なるブランド名をつけているという。


伝承は衰退。伝統は革新。

戸田氏は、自分たちの仕事について「伝統工芸」ではなく「焼き物という素材として何ができるのか、伝統工芸のメソッドを使って何ができるのか」の体現なのだと語る。

「価値観も含めてすべて同じことをやり続けるのは衰退の原因になる」とも戸田氏。もともと渋草柳造窯には「伝承は衰退。伝統は革新」という家訓がある。「伝統」というのは革新を続けていくものであり、現代の価値観と照らし合わせ必要性や必然性を認識しなければ熱量は生まれないと考えているという。

「『伝統』とされているものも産声を上げた瞬間がある。でも『これはすごい』と作り手や買い手の熱意で迎え入れられ、それを繰り返しで伝統となった。それが保たれないと伝統にはなれない」

ディレクションワークや商品開発等、一見すると窯元の仕事とは隔たりがある仕事に取り組むようにも見える戸田氏だが、伝統工芸の世界で積み重ねてきたメソッドを学んだ事でこそ今の仕事があるとも考えている。

「伝統を壊すというのではなく、「分解する」ことが大切。組み直す事で元の形と違うバリエーションが出来る」「伝統を知っているからこそ、足りないもの、必要なものが見えてくるし、必要な人とも一緒に形に出来る」そうだ。

好きではなかったからこそ見えるもの

戸田氏は従来の商品作りに捉われない今の仕事を「もともと、焼き物の仕事が好きじゃないからこそ出来た」とも話す。やらなければならない事とやりたい事をどうコネクトするかを考えた結果が今の渋草柳造窯のスタイルに繋がっているという。

「なぜ僕が伝統工芸をやりたくなかったかを考えたら、結局かっこよくなかったから。今は若い世代に面白いと思ってもらえる仕事をしたい」

作家として7代目渋草柳造を継いだ弟・鉄人氏と共に会社を運営することについて、戸田氏は「兄と弟」であることのデメリットを挙げつつも、「作品作りは弟、会社の経営・企画は自分」とそれぞれの役割を明確に設け、お互いが相手の「補佐」の立場に回ることで、ビジネスパートナーとしての良好な関係を12年かけ築いてきたそうだ。また、作家である鉄人氏がクリエイティビティを注ぐことが出来る案件や場を用意することも、自分自身の大きな仕事の一つと認識していると戸田氏。

今後の会社の展望については、JICAの専門家派遣でラオスの伝統文化推進活動を行った際に感じた地域の課題感を挙げ、地域の文化・教育・経済が一体となっていない事で住民のために上手く機能していない現状を解決する為、自分たちがそれらをつなぐ「場所」としての機能を担えるようになりたいと話す。

一度は逃げた家業の継承がスタートだったが、元の枠に捉われず次々と新たな仕事を生み出す戸田氏。仕事への思いを「一生のうち学生時代の倍以上の時間が仕事。そうなると仕事の中で、自分がいかに幸せにすごせるか、やりたいことに時間を使える状況を作っていくかが重要だと思う。トライアンドエラーを繰り返さないとそこの精度は上がっていかないから、まずやってみることが大切」と語った。