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笠原製菓代表取締役 笠原健徳氏/2021年度第5回 起死回生のブランド育成

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笠原製菓代表取締役 笠原健徳氏/2021年度第5回 起死回生のブランド育成

笠原製菓代表取締役 笠原健徳氏/2021年度第5回 起死回生のブランド育成

むすぶしごとLAB.は第一線で活躍する経営者や専門家をお招きし、地方での仕事の作り方や働き方のヒントを探すための実践的な学びと交流の場です。2021年度第5回目の講座では、笠原製菓代表取締役の笠原健徳さんにご登壇いただきました。

笠原健徳さんは2014年に弟・忠清さんとともに笠原製菓・四代目に就任。自社ブランド「SENBEI BROTHERS」は、これまでの煎餅のイメージを変えるおしゃれな包装と独自のフレーバーが人気の商品です。

笠原製菓は、一度は家業を畳むことを考えたほどの経営難でしたが「SENBEI BROTHERS」がきっかけに黒字に復帰しました。本講義では笠原製菓の軌跡を辿りながら人気商品の誕生秘話を伺いました。

「SENBEI BROTHERS(センベイブラザーズ)」誕生

笠原さんは1960年に祖父が創業した煎餅工場・笠原製菓に生まれました。

笠原さんが20歳の時に二代目である父が亡くなって以来、叔父が三代目を継承。当時、笠原さん自身はデザイナーとして会社勤めをしていたそうです。

ところが2014年に三代目の叔父に大きな病気が見つかり社長を退くことに。当時は経営が非常に厳しい状況だったため家業を畳むことも視野に入れていたと言います。

「僕は煎餅作りも経営も完全に素人だったんです。でも家業をなくしてしまうのは残念だと思い、気持ち一つでこの世界に飛び込みました」

笠原さんが笠原製菓を引き継いだ当時は銀行からの融資も難しい状況。そこで、50年近く取引を続けていたOEMの発注元との契約を見直し、社内体制も整えていったそうです。

ある程度体制が落ち着いたところで、利益捻出をスタート。ここから、生産を工場長として働いていた弟・忠清さん、経営を兄・健徳さんが行う「SENBEI BROTHERS(センベイブラザーズ)」が始まります。

現場でコミュニケーション術を磨く

「『SENBEI BROTHERS(センベイブラザーズ)』というブランドを発案したときに思い浮かべたのは、ニューヨークのホットドッグ 。ホットドッグはスーツを着た人が食べてもかっこいい。同じように煎餅を食べる姿もかっこよく見えれば、煎餅がもっと身近なお菓子になると思いました」

そんな発想から、「SENBEI BROTHERS」は煎餅をライフスタイルに取り入れてもらえるよう「かっこいいけれど食事として美味しい」煎餅を目指すことにしたそうです。

「バジル」や「トリュフ塩」をはじめとする人気フレーバーの開発や、工場での直売、地元の催事への出店など、地道な努力の成果で「SENBEI BROTHERS」の煎餅は少しずつ売り上げが伸びていきました。

笠原さんは店頭販売での経験から、コミュニケーションを磨く大切さを説明。

「まずは試食していただきたいので、お客さんと距離感の近いコミュニケーションを目指しました。お客さんが求めているものによって、やり取りを変化させるんです。全員に同じ商品を勧めるのではなくて、そのお客さんが手に取った煎餅について説明。その時に買ってもらえなくても、名前と味を覚えてもらえれば、のちのち贈答用に購入してもらえることもありました」

特に100店舗以上が集まるような大規模な催事に出店する際には、たくさんの店舗に埋もれずにお客さんに足を止めてもらうために工夫を凝らしたと言います。

その時に活用したのがビジュアルアイデンティティーの考え方。煎餅の説明だけでなく、煎餅を購入することによる生活の変化をイメージしやすいようなビジュアルを作成。

数々の催事で好評を得たことで「SENBEI BROTHERS」の煎餅が、年齢を問わず、家族共通のお菓子として受け入れられた手応えを感じたそうです。

1人のお客さんに10回買ってもらえる商品作りのために

笠原さんが、企画を立案する上でのキーワードを教えてくださいました。

一つ目は「当たる商品より刺さる商品」。不特定多数の人に向けて作るよりも1人のお客さんのお気に入りのお菓子になることを目指すということです。

たとえば、味にメリハリをつけることを目指した商品「極みワサビ」や「ニンニク」は強い風味が特徴の煎餅。アクセントが癖になると、特にリピーターが多い商品だそうです。

そんな商品づくりを、「僕たちは大手の米菓企業ではないので、手間暇をかけてでも、大量生産をメインとした生産体制ではできないことをやろうと思っています」と話しました。

二つ目は「やるべきことをやりたいことに変換しよう」。
例えば、商品の一つ「センベイカーニバル」は割れた煎餅のアップサイクル商品。米菓業界では割れたり欠けたりした煎餅を「久助」と呼び、正規品より安く販売することがあるそうです。

久助は味に遜色がないにもかかわらず、見た目のせいで買い叩かれてしまうのを疑問に思った笠原さんは、規格外の煎餅をボトルに詰めたアソート商品を発案。煎餅を無駄にしないために誕生した商品は、製造工程で商品全体のコストを抑えることに繋がり、お客さんにも喜ばれる仕組みができています。

「SENBEI BROTHERS」の煎餅ボトルやパウチ式クラフトバッグは、湿気から煎餅を守る機能性も高い包装 。これも「やるべきことをやりたいことに変換」した例の一つなのだそう。「最後までお煎餅を美味しく食べてほしい」という笠原さんの思いと、食品ロスを減らす仕組みが合わさっています。

続いて、笠原さんはブランディングを「花の育成」に喩えて説明。
「SENBEI BROTHERS」が掲げるコンセプト「せんべいを、おいしく、かっこよく。」は種に当たると言います。商品や商品を広めるための販売活動が水、広告やマーケティングが日光となり、ブランドの成長を助けるそう。

「ブランディングで特に大事だと思うのはコンセプト、種の部分ですね。コンセプトは分かりやすければ分かりやすいほど伝播が加速します。ブランドは最終的には現場の熱意によって実績に繋がり、花が咲く。だから製造、バイヤー、販売員などの現場スタッフにも熱意が伝わるようなコンセプトが必要です」

自分の好きなことに正直に

後半の質疑応答では「OEMで付き合いがあったお得意先との契約を見直すのは、不安でしたか?」という受講者からの質問には「これまでのお得意先との契約を見直していくなかで、目下の売上げはマイナスになるだろうという認識はありました。だからこそ、マイナスを埋める為の、プラスとなる自社ブランド『SENBEI BROTHERS』の育成を同時進行で推し進めてきました。」と回答。

「商品開発で大事にしていることは」という質問には、「大手の米菓製造会社と差別化するために、自分たちにしかできない商品作りを目指している」と答えました。

講義の最後に、笠原さんは、「業界のセオリーを頼りにするよりも、実際に自分が美味しいと思ったものを『なぜ美味しいんだろう』『なぜ人気があるんだろう』と考えてみる。自分の感覚を正直に突き詰めていくと、自分にしかできないことが見つかると思っています」と締めくくりました。