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REPORT

稲とアガベ  岡住修兵氏/酒造りとともにまちの未来と文化を醸成

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稲とアガベ  岡住修兵氏/酒造りとともにまちの未来と文化を醸成

稲とアガベ  岡住修兵氏/酒造りとともにまちの未来と文化を醸成

むすぶ しごと LAB.は、第一線で活躍する経営者や専門家をお招きして自分らしい仕事のつくり方や働き方のヒントを探る実践的な学びと交流の場です。
2024年の第5回講座では、「稲とアガベ株式会社」代表取締役の岡住修兵さんにご登壇いただきました。

稲とアガベは酒の新ジャンル「クラフトサケ」の醸造だけでなく、レストランや酒粕を活用する加工食品所なども立ち上げており、酒を媒介とした男鹿のまちづくりにまで手を広げている会社です。会社を中心に、まちの賑わいや米農家など地域資源の持続可能性へも挑戦を続ける岡住さん。“サケ”も“まちの文化”も醸す会社づくりのこだわりを聞きました。

豊かな雇用を生み出す起業家目指し

岡住さんは福岡県北九州市出身。大学でアントレプレナーシップを学び、起業家を志します。当初は、自身が「世間に馴染めない性格」と考え、企業への就職よりも自身で事業を始めることが幸せにつながると考えていたそうです。
しかし、企業について学ぶほど「企業の10年生存率は10%未満、20年生存率は5%未満」などと厳しい現実を目の当たりにします。起業へのモチベーションを考え直そうと教科書を読んでいた際、目に止まったのが「企業をすること自体が社会貢献になる」という文章でした。
「ひとりでも多くの豊かな雇用を死ぬまでに生み出し続けよう」。岡住さんの起業家としてのテーマがこの時に定まりました。
決意を固めたものの「一生をかけて仕事にしたい“これ”というもの」がなかったという岡住さん。選び方の方向性を変えようと考えたとき、部屋の片隅に転がっていたというのが酒瓶。ここから日本酒への道を進み始めます。

酒造へのダイレクトアタック、速攻で秋田移住が決まる

企業を見据え、多くの日本酒を飲む中で出会ったのが「新政酒造」(秋田県秋田市)だったそうです。飲んだ瞬間の感動で、ファーストキャリアに決めました。Facebookを通じて社長と繋がり、入社が決定。大学卒業後に秋田県への移住も決まりました。
酒造では、4年半にわたって酒造りを経験。自分の醸造所立ち上げに向けて計画づくりを進め、2021年に稲とアガベを立ち上げます。
ここで直面したのが、「日本酒は完全な新築の造り酒屋は認められない」という法律の問題でした。日本酒をつくる会社にするには既存の酒造を継承するしか方法はなく、岡住さんはこの生産設計自体に疑問を持ったといいます。そして、「法律を変えられる人間になる」と新しい目標を持ったそうです。
新規事業者として始められるのは「その他の醸造酒」のくくり。「その他」というのは、日本酒やワイン、ビール、果実酒、泡盛など、そのどれもに当てはまらないもの。
法律の制限に直面したものの、「ものは考えよう」と岡住さん。「日本酒みたいなもの、ビールみたいなものを幅広くつくれるパラダイム免許。濁り酒が作れる免許と考えると視野が狭くなるけれど、こう考えると『あれ、なんでも造れるんじゃね』と考えると世界が広がる」と冷静に将来を見据えたそうです。
こうして、米と麹を使ってつくる日本酒に、フルーツやハーブなどを加えて一緒に発酵させる「クラフトサケ」という新ジャンルにたどり着きました。
「ジャンル」作りに乗り出したのは、一過性の珍しい酒とならないため。ジャンルを持たないことによる同じ悩みを持った全国7箇所の会社で協力し、「クラフトサケ」の普及に取り組み始めたそうです。
「僕たちはクラフト酒ですと言い始めてから2年半くらい。少しずつ酒好きの中で知られるようになってきました」(岡住さん)

クラフト酒が秘める可能性
「最初はしょうがなくこの酒を造っていましたが、やればやるほど色んな可能性があることに気がつきました」と岡住さんは笑顔を見せます。
一つ目の可能性として「地方創生との相性が良い」と話します。米と麹のほかに原料を加えられるため、梨やブルーベリー、メロンなど各地の名産品をアピールすることが可能です。開発を通じ「その産地が良く見える」とも指摘します。商品とともに地域の良さを伝えられるため、自治体と協働しやすくなりました。
二つ目の可能性は「コラボ」。「食べられる物であれば、ほとんどは酒にできる」ことから、コラボ相手はさまざま。そして、このメリットは、コラボ相手のファンにもクラフト酒が届くことです。自社の流通とは違った流れで商品を届けることができる点を大切にしているそうです。
岡住さんは「面白い生産者さんと出会ったとき、新しい酒が生まれる。それが僕の発想を超えてくれる」とクラフト酒の新たな市場開拓に期待を寄せます。
クラフト酒を広げるため、このほかにもイベント開催にも力を入れます。ファンツアーやご自宅での試飲会など「イベントを通じてブランド力を磨いたり、クラフト酒の魅力を伝えたりしている」と岡角さんは話します。

酒づくりからまちづくりへ
「お酒は地域のメディアだと考えています」
稲とアガベは「まちをつくっている」という自負も持つ企業です。「お酒だけでなく、プロダクトって地域のメディアになりうると思っています」と岡住さんは強調します。
男鹿市は秋田県の中でも人口減少が進んでいる地域。「毎年2000人ずつ人口減少しているまち。コンテンツがすごく少ない状況でした」と岡住さんは危機感を募らせます。
クラフト酒を目当てに「男鹿を観光しよう」と考えても、人もコンテンツも無いのであれば、実際に足を運ばない。岡住さんは「だからシャッターを開けていこうと決意して、酒店経営と同時にレストランも立ち上げました」と酒造の枠を超えた取り組みに踏み出しました。レストランのほかにも、酒粕の食品加工所や宿泊所など、会社を設立してから3年で8拠点を立ち上げるという驚異的な「即行動」を実現してきました。
この各拠点は、まちづくりや持続可能性へのこだわりが詰まっています。
酒粕の食品加工所は、県内で年間400万トン破棄される酒粕の再利用の視点で取り組み始めたプロダクト。「サスティナブルファクトリー」と名付け、卵の代わりに酒粕を使ったマヨネーズを販売。「破棄されるはずだった酒粕に100円でも値段をつけられれば、4000万円分の経済効果があります」(岡角さん)。また、酒造りで空気中に放出されたアルコールを回収して再利用する施設や空き家をフルリノベーションしてつくったホテルなどがあります。
さらに、「ラーメン屋のない街に住みたくない」という思いから、ラーメン店も設立。これは、岡住さんから子どもたちへのメッセージでもあります。
この地域では、親が子どもたちに対して「この街はもう終わりだから、出て行け」と言うことも少なくないそう。「“何もない”という発想だと、本当に何もないまま育ってしまうんです。“何か作れば良い”ということを大人として子どもたちに見せたいと思いました」と岡住さんは子どもたちに思いを馳せます。
まちが無くなる前に
「大前提は急ぐことです。急がないとまちが無くなる」
3年で8拠点を築いきました。「コンテンツは古くなるので、新しい文化をつくる」と岡住さん。流行りで移り変わるコンテンツではなく、男鹿に「酒のまち」という未来へ受け継がれる文化を根付かせ、移住者や観光客の誘致が進んでいくことを目指します。
そんな岡住さんの行動力を見て、地域の大人や子どもたちも代わりつつあります。生徒向けに行なった岡住さんの講演後「男鹿はもう終わりだと思って出ていこうと思ったけれど、チャレンジを見て聞いて、頑張りたいと思います」と感想を持つ子どももいるそう。
また、地元の飲食店が復活するなど「自分もチャレンジしよう」といった良い循環も生まれています。
「僕がまちづくりをしているのは、空の上で美味しい酒を飲みたいから」と岡住さん。自分がいなくなった後、これまで築いてきた物がゴミになってしまっては「生きがいないじゃない」と語ります。
空から面白くまちを眺めるため、100年、200年先も残る文化を醸しています。