REPORT
ラーメンやんぐ代表 高梨哲宏氏/お金になるスキルを見極め「好き」を仕事に
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ラーメンやんぐ代表 高梨哲宏氏/お金になるスキルを見極め「好き」を仕事に
むすぶ しごと LAB.は、第一線で活躍する経営者や専門家をお招きして自分らしい仕事のつくり方や働き方のヒントを探る実践的な学びと交流の場です。
2024年の第1回講座では、ラーメン店「ラーメンやんぐ」の店主、高梨哲宏さんにご登壇いただきました。
高梨さんのラーメン店は、飲食店の枠に囚われない自由なアイデアが特徴。
店の半分がTシャツや帽子、雑貨などの販売スペースになっている上、DJブースまで常設しています。
店舗のある静岡県・三島市では、高梨さんの挑戦に触発された人がアパレルや本屋を出店し、「三島サブカルチャー」が築かれつつあるそうです。講座では、高梨さんの人脈や自由な発想を生かした店づくりについて聞き、“小さなお店”の可能性について探りました。
バンドマンからラーメン屋店主へ
高梨さんは、静岡県伊豆市生まれ。高校生時代に文化祭での演奏をきっかけに、バンド活動を本格化。卒業後にはバンド活動に専念します。パフォーマンスだけでなく、野外フェスも主催し、設営や資金集めなどイベント運営のノウハウを培ったそうです。
また、当時は音楽活動と並行して、兄が経営するラーメン店でも勤務をしていました。このとき、ラーメン店の定休日に「間借り営業」をし、自身の創作ラーメンを世に出していきます。
このような多種多様な経験が、その後の仕事につながっていきます。
バンドの解散後、「食べていくために、自分の好きなものの中で、一番金になるものは何か」と考えたそうです。その際に「自分の持っているものの中で、最もお金に変わる力が強いのは、ラーメン」だったと自己分析。
また、高梨さんは「なんでも良いから自分の仕事、“お店”をつくりたかった」とラーメン店主への転身を決意した当時の心境を振り返ります。

バンドマンの顔も持つ高梨さんは、ラーメンに対する心持ちが他店のラーメン店主とは異なりました。
実は「お腹が弱い」という高梨さんは、そんな自分にも「ちょうど良い」ラーメンの開発に取り組みます。「ラーメンという概念にはこだわりがなかった。しかし、味にはこだわりがある」と「生搾りレモンラーメン」などといった創作ラーメンを発信していきます。
また、バンド時代からの出会いや様々なツアーで地域を回った経験も活かしていったそう。このほか、アメリカを旅行して新しい文化やアイデアをインプットすることもするそうで、各地で「居心地の良い」飲食店のこだわりを吸収し、自分の店の空間づくりを追求したそうです。
バンドマン時代の人脈やスキル生かした店づくり
「アーティストやミュージシャンとの出会いがあることは、自分の強みだなと思っていました」と高梨さんはバンドマンだったからこそ生まれる発想で店に独自の文化を築いていきます。ラーメン店を使ったライブやイベントも開催。バンドマン時代の出会いも、店づくりに活かしていきます。そして、そのような取り組みは、人や物との新たな出会いにつながっていったそうです。
バンドマンとしての強みは、店の移転時にも活かされます。バンドマン時代は、スタジオの利用料を節約するために練習小屋をつくったり、フェスのステージ設営をしたりしていたという高梨さん。そこで培ったDIYの経験が店づくりにも活かされました。
店の内装や外装にもこだわりがあった高梨さんは、初期費用をおさえつつ思い通りの店を造るため、自ら改装をする「0からの店舗づくり」に挑戦。友人の助けを得ながら、外装や内装、暖房設備などをDIYで造りあげました。
ただ、資金集めには苦心をしたそう。銀行から融資をもらうためには原資が心許ない状況でした。そこで「困ったらグッズをつくる」というバンドマン時代からの工夫で乗り越えます。資金集めには、クラウドファンディングをする方法もありますが、手続きの寄付をしたいと思ってもらうための発信の準備など手間がかかります。「グッズ販売の方が早いなと思ったんです」と振り返ります。
こうして完成した新店舗は、ラーメンカウンターが店の奥にあり、手前は展示や販売ができるスペース。さらにイベント開催時に使うDJコーナーがあるなど、ラーメン店としては「風変わり」な内装となりました。
モノや体験、ヒトと出会う場所へ
「ラーメンをお出しするのは当然ですが、自分がやりたいことをやる」とからりと笑う高梨さん。「ラーメン屋をやりたいという気持ちよりも、この場を使って誰かと遊びたいという気持ちでやってます」
洋服が好きという顧客との交流から生まれた古着販売を実現。知り合った作家に対しては展示をするためのスペースの提供やポップアップショップの展開しています。このような、積極的なイベント開催は、新たな顧客層の開拓になるだけでなく、地域のコミュニティを活性。サブカルのまち「三島」の機運醸成もになっているそうです。
以前、高梨さん自身が「間借り営業」をやっていたように、飲食店をやりたい人に対して、定休日に店舗を貸し出す取り組みもやってきました。ラーメンやんぐの場で腕を磨き、開業に踏み出す人も。現在は、らーめんヤングの定休日を利用した、喫茶もオープンし人気を集めているそうです。
「つながった皆んなで好きなものをシェアしていくことで、集客力も増していく」(高梨さん)
高梨さんの自由な「やりたい」は、実現することで新しい展開を生み出しています。

飽き性“高梨”の新しいスタンス
「ラーメンに飽きた」。高梨さんは開業から6年、こんな悩みを抱えていました。
高梨さんにとって「同じことを続けるのは地獄でしかない」こと。しかし、「店主がラーメンを作らないラーメン屋は、ボーカルのいないバンドではないか」と打開策を練られずに「爆発寸前」までフラストレーションを溜めたそう。ついに、涙ながらスタッフに悩みを打ち明けました。「もうラーメン屋をやめようと思う。もし続けたければラーメンをつくってほしい」。
自分が「地獄」だと思っている作業をスタッフにやらせることに躊躇っていた高梨さん。しかし、スタッフの反応は予想外のものでした。
「ラーメンつくってみたかったんです」(スタッフ)
今では発注の仕事までスタッフがこなすようになり、高梨さんは経営に専念できるように。「焼き肉屋で見守っているおばあちゃんみたいなポジションになった」と高梨さんは冗談交じりで話し「話してよかった」と振り返ります。頼もしいスタッフの自主性を重んじ、尊敬の念を抱いているそうです。
余裕が生まれたことで、ラーメン以外のコンテンツにも体力と時間を割けるようになりました。

そもそもラーメンやんぐさんの「夜の営業をしない」「日曜は定休日」といったことは、ラーメン店の経営としては常識破り。しかし、それをブース設営など斬新なアイデアで補っています。
スキルの中からお金になるものを選ぶ
異色のラーメン店として成功した高梨さん。「夢破れて」とラーメン店主としてのスタートを表現しますが、着実に「好き」と「得意」を活かした仕事を生み出し、近くで挑戦する誰かの背中も押してきました。
そんな高梨さんが、選択をする際に考えたことは「自分が持っているスキルの中でお金に変わるものをとりあえずやる」ということ。
ただ、高梨さんは「自分から見た価値」と「社会から見た価値」にはギャップがあることにも注意が必要と指摘します。まずは、社会にとって価値があることから始め、お金や時間などに余裕ができることで「自分がやりたいこと」「好きな人と働く」「そもそも働かない」といった選択肢を持つことができると言います。
おまけ
個人事業主3人組バンド「みふく」を2024年の年始めに結成。講座に先立って行われたイベントでは、ラーメンやんぐなど三島で活躍する店舗が出店したほか、「みふく」が演奏を披露しました。
