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D&DEPARTMENT ディレクター ナガオカケンメイ氏/2020年度第5回 つづくをつくる~ロングライフデザイン~

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D&DEPARTMENT ディレクター ナガオカケンメイ氏/2020年度第5回 つづくをつくる~ロングライフデザイン~

D&DEPARTMENT ディレクター ナガオカケンメイ氏/2020年度第5回 つづくをつくる~ロングライフデザイン~

専門家による講義や対話、フィールドワークなどを通して、これからの地方での仕事の作り方や働き方のヒントを探すための実践的な学びの場、むすぶしごとLAB.。
2020年度最終回となる第5回は、D&DEPARTMENTディレクターのナガオカケンメイ氏が登壇。

各地に構えた店舗からその土地のロングライフデザインを紹介する「D&DEPARTMENT」、土地に根付く文化を編集する旅行文化誌「d design travel」、47都道府県のその土地らしさを常設展示する「d47 MUSEUM」を展開するナガオカ氏。

1.らしさ/2.原点/3.時間/4.日本で視る/5.シャレ/6.提案する/7.人/8.根付く/9.仲間の9つのキーワードに添いながら、自身が好きな言葉であると語る「根付く」というキーワードへの思い、デザイナーであるナガオカ氏が考える「デザイン」の意味を伺った。

東京よりもっと面白い個性がある

ナガオカ氏の近年の活動に大きな影響を与えたのは2008年に自身がコミッショナーとして企画した『デザイン物産展ニッポン』だ。各都道府県を表す47の展示台に5つの同一テーマでモノを集めたその展示は、いちデザイナーとして、「日本のデザインがどうなっているのかをみたい」というナガオカ氏の興味からはじまったものだった。

「展示台には47の土地それぞれの伝統産業や、旅で訪れたい場所、その土地のメディアなど、その土地に根付いた”デザイン”が並びました。その時、『デザインは東京だけのものではない』と痛烈に思ったんです。東京よりもっと面白い47種類の個性があるとショックでした」
18歳の時、「田舎が嫌で、デザインをするなら東京でなければ…」と住んでいた愛知県から上京したナガオカ氏にとって、この展示での気づきは衝撃的な事だったそうだ。後にその企画は、ナガオカ氏によって『d47 MUSEUM』として定期的にテーマを変え渋谷に常設展示されている。

つづく事の価値 デザインの意味

ナガオカ氏の取り組みを語る上で鍵となる「ロングライフデザイン」という言葉は、「長年にわたり製造販売され生活者に支され続けている」ものを表す和製英語だ。

「ロングライフデザインは日本にあった考え方。『長く続いていくという事』に世界中から関心が持たれている」とナガオカ氏。近年「デザインの意味が変わった」とも続けた。長く続いているものや文化が価値となり、それらを生かす事もデザインと認識されるようになったという。

ただし、ロングライフデザインとは、「ずっと変わらないという事」ではない。また、パッケージのデザインの話でもないとナガオカ氏。

「僕は、流行や最新の物が嫌いだと思われる事もあるけれど、実は新しい物も買い物も大好き。ただし、長く続くものと組み合わせる事が大事だと考えています。所謂『センスのいい人』とは、いつの時代も変わらない定番と、最新の物とを組み合わせるのが上手な人の事を指すという認識です」

新しい事だけをするのも、変わろうとしない事もブランドとは呼べない。「ずっと変わらない」のも「定番が無い」のも、ロングライフデザイン、ひいては愛されるブランドにはなり得ないとナガオカ氏は考えているそうだ。

「流行に乗らない」「少しづつ時代に合わせて進化」「計画的に生産している」「誰かの成功を追わない」「続けるための新しいをもつ」。これらが氏の定義するロングライフデザインの要素だという。

求められているのは土地に根付く個性

経営者としてのナガオカ氏のモットーはシンプル。

「社会にこういうものがあったほうが絶対にいいはず、と思ったものをお金を払って社会に投げてみる。そして、それが相手にされないなら大人しく閉める事にしています」

毎年仕事はじめには、「今年も求められるものを作ろう」とスタッフに話す事が恒例になっているという。「僕は根付くというキーワードが大好き」というナガオカ氏。現在、ナガオカ氏は”デザイン”というワードを「その土地に根付いている素晴らしい個性」と解釈している。

運営するD&DEPARTMENTは、「その土地の個性を持つモノ」を販売するストアで、現在世界に10店舗展開中。販売されているのは、製造開始から40年以上経つ「世界」「日本」「その土地」それぞれのロングライフデザインの商品だ。どの店舗でも最初は珍しさから「世界の」商品が売れるが、次第に地元のロングライフデザイン商品の売上割合が高くなってゆくという。

「だんだんと、地元の人が地元の商品を買ってゆくようになる。販売している商品は、もっと安くネット通販でも買うことが出来るけれど、店は続いている。つまり社会に求められている」とロングライフデザインが社会に受け入れられている事をナガオカ氏は体感しているそうだ。

講座後半の質疑では、「地方には発信されていないことの魅力がある」と地方についての考えを語ったナガオカ氏。「地方を実際に取材してみると、魅力がない土地はない。東京並みに情報発信されると、人が集まりその場所が消費されてしまうように思う」と話す。

店舗経営やイベント運営を行なっているという受講者から挙がった、地方においての集客の課題にまつわる質問には、情報を「開いていく」順番が大切であると答えた。

「まずは自分たちの周りにいる一緒に街を育ててゆきたい人、文化意識の高い人に『開いて』ゆく、仲間の層を作り、その後徐々に不特定多数に向けてPRすることが重要」「商売は常連のお客様が50人いれば成立するもの」と自身の体験も合わせてアドバイスした。

また、「地方で今後活躍していける人とは?」という受講者の質問に対して「所属する背景のある人」とナガオカ氏は返す。

例えば、土地で採れる粘土を使って、その土地の人が作った器に惹かれる事が多いように、土地の文化や物、歴史と紐づいたモノやコトを作る人である事は、求められる人材となるための要素であるという。

「僕は産地に紐づいている人の事を応援したくなる」と穏やかにナガオカ氏は語った。