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REPORT

中小企業診断士 堀田誉氏・Perk inc.代表 小林宏明氏・株式会社チャウス代表 宮本吾一氏/2020年度第4回 地域資源の磨き方

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中小企業診断士 堀田誉氏・Perk inc.代表 小林宏明氏・株式会社チャウス代表 宮本吾一氏/2020年度第4回 地域資源の磨き方

中小企業診断士 堀田誉氏・Perk inc.代表 小林宏明氏・株式会社チャウス代表 宮本吾一氏/2020年度第4回 地域資源の磨き方

専門家による講義や対話、フィールドワークなどを通して、これからの地方での仕事の作り方や働き方のヒントを探すための実践的な学びの場、むすぶしごとLAB.。

2021年度第4回目は、モデレーターに中小企業診断士の堀田誉氏を迎え、Perk inc.代表の小林宏明氏・株式会社チャウス代表取締役の宮本吾一氏が登壇。「働くことは暮らすこと」「仕事をするって生きること」そう語るパネラー二人に、事業の軸でもある地域資源に目を向けたきっかけや働くことへの価値観を伺う。

 

堀田誉氏

自分らしさを活かし得る豊かさ

モデレーターの堀田誉氏は、中小企業診断士・キャリアコンサルタントして活躍中。現在はいばらき観光マイスターとしても観光事業の活性化に取り組んでいる。堀田氏は、新卒で入社した会社から転職したのち、オーナーとしてホテル経営に携わった経歴の持ち主。堀田氏自身もリーマンショックや東日本大震災といった地域のあり方が問われる中、キャリアチェンジを果たし地域で新たにスタートを切った一人だ。

社会の環境が数ヶ月で変わる現代の経営においては、従来のように、競合から顧客ニーズを勝ち取り得る「経済的な豊かさ」を重視する「ビジネスモデル」では無く、経営者が社会に対してのビジョンを持ち、見えない課題に対してアクションを起こす「精神的豊かさ」を重視する「ライフモデル」型の経営が必要とされると堀田氏。

「精神的豊かさのためには、自分らしさの活かし方を見つけることが重要。先人の例はあっても、得意な事、苦手な事はそれぞれ。また、能力には立場によって生じるものもあり、創業し、経営者の立場にならないと変わらない要素もあります」

今日のパネラー二人の話も、自分にも活かせるエピソードや考え方を学びながら、今、自身が持つどの「要素」を磨いてゆけば、今後に活かせるのかを考えながら聞いてほしいと受講者に話した。

 

小林宏明氏


全ては”流れ” 人との出会いで生み出す仕事

小林宏明氏が独立し、イベントの企画運営を行う会社を立ち上げたのは25歳の時。キャンプ場「一番星ヴィレッジ」の企画をはじめ、アウトドア環境でのテレワークイベント「SAKUSAKUSAKU」や代々木公園での避難訓練キャンプ「SHIBUYA CAMP」等の会場設計や空間プロデュースを手がけてきた。2017年には桐生市に旅とアウトドアのコンセプトショップ「Purveyors」をオープン。2020年には桐生発のクラフトビールの製造プロジェクトが始まっている。

出会いとニーズが生まれる時

小林氏は働く事について「今もやりたい事や、理想の働き方はあまり無い」と言い切る。
「昔からアウトドアが好きだった訳でもなく、ビールも飲めない」そうだ。Purveyorsはイベント設計の仕事の縁でアウトドア関係の知り合いが増えた事、そしてたまたま桐生を訪れ「良いなと直感が働いた」事でスタートしたし、昨年はじまったクラフトビール事業も小林氏が魅力的な醸造士と出会った事がきっかけで「醸造士を応援すべく」立ち上げたもの。すべて「流れと人」によって今があると語る。

「流れ」とは言いつつも、次々と新しい発想と魅力的なコンセプトのプロジェクトや事業を生み出し続ける小林氏。その着想や事業化の決め手については、「昔から僕だったらこうするのに、と思う事が多かった」と話す。

地域資源やそれらの需要は、その地域に住む人の目には「当たり前の景色」すぎて映らない事も少なく無い。「それを生かす場所や店が無いなら自分で作るしかない」と企画や事業化したものが、社会のニーズとして存在していたという事が多いのだそうだ。

共に働くこと

また、小林氏は「事業への投資のしがいがあるか無いかは人で見ている」と加えた。人や場所との出会いで動き出すプロジェクトも少なく無い。一緒に働く誰かに対しての信念は独立前から変わらずある。

「人を裏切りたくないし、裏切られたくない。昔から仕事でやりたい事は分からなかったけれど、やりたく無い事は明確だった」

一緒に働く「人」への思いを語る小林氏だが、翻って「人には期待しない」とも語った。小林氏は、仕事を一緒にする仲間には、能力や価値観まで同じであることを求めない。かつて自分が雇われる側だった時の経験から「誰かに期待をすると、上手くいかないのを人や環境のせいにしてしまう」と考えているらしい。
最後に、キーワードとなる人との出会いについては、「自分の魅力を高めてゆけば、周りに人が集まってくる」と自らの経験に基づいて教えてくれた。

 

【宮本吾一氏】

地域の課題に”仕事”で向き合う

「人がいっぱい居る場所が嫌」と生まれ育った東京から20歳の時に那須町へ移住を決めた宮本吾一氏。ハンバーガー専門店を運営していた際に感じた「この野菜の生産者がどんな人か知りたい」との疑問から、那須の生産者が集まるマルシェ「那須朝市」を主催。
2014年には地元の生産物を販売するマルシェ・それを調理し食べるテーブル・遠方の人が食事後宿泊できる宿の要素を合わせ、ゲストハウス「Chus-チャウス-」として再スタートしたほか、バター生産時の副産物を使用した銘菓「バターのいとこ」の開発や、地元の自然栽培の米を醸造した日本酒が飲める居酒屋のプロデュース等を行っている。

旅暮らしから地域の暮らしへ

現在は那須に根を下ろし、地域の課題解決のための事業を多数行う宮本氏だが、移住後の数年間は、半年働いては半年旅をして回る生活を送っていたそうだ。
「ふらふら旅をして帰って、旅先の話をして回ると人気者になれる。当時はそれがかっこいいと思っていた」と宮本氏。ある時、農業をする友人の話を聞き「種からモノを作るってすごいと思った」と考えが変わった当時の事を語る。

「モノを生み出している友人に対して自分の生活には、なんて生産性が無いんだろう。地味でも地に足をつける生活をしてみよう」

課題も解決方法も地域の中に

宮本氏はその決意の後、現在に到るまで多数の事業を展開しているが、「店をやりたかった」訳では無いらしい。「どうしたら目の前にある課題を解決出来るのか」を考えた結果、解決策として生まれたものが、宮本氏の事業なのだそうだ。

生産者と消費者がつながるマルシェを継続していくために実店舗化したものが「Chus」であり、「バターのいとこ」はバターを作る過程で大量に出来るスキムミルクの利用価値を求めて生まれた、酪農が盛んな那須ならではの銘菓だ。

また、バターのいとこは現在、観光で賑わう複合施設内に設立された障害者就労支援施設で生産している。地域に障害のある人が働いて収入を得られる場が無かった為に設立したそうだ。
「利用する人の家族が『私の家族がバターのいとこを作っている』と熱量をもって応援してくれている」と宮本氏。

「すごく良いエネルギーをもった人が各々の街で増えたら嬉しい。一人が一人を誘って、その姿を良いなと思った人が自分でやりたいことをやる、そのループの一端になりたい」

仕事をすること、暮らすこと

講座後半の質疑応答では、「誰かの協力を得るにはどうしたら良いか」「同じ思いや価値観を持った従業員が集められるか不安」といった仲間集めや採用についての質問が相次いだ。経営や自分の理想とする目標の為には、時に採用によって人を増やすことも必要になってくる。

採用の考えについて、小林氏は「価値観や目標が違っていても能力の高い人はいる。もしそれ以外のことに期待をしてしまうなら、自分が出来る範囲でビジネスをするのが良いと思う」との考えを示した。宮本氏も「事業を大きくするなら人は必要。でも、自分がやりたいものを守るならそれは違う」と続ける。まずは経営者として、自分の目標とする事業規模や価値観など、進む方向と立ち位置を明確する事が重要なのだそうだ。

また、両氏共に自社の採用の際には、「面接で人を落とすことは無い」という答え。
「仕事をするって生きること。ライフワークバランスは仕事をつまらない事と考えていているようで好きじゃない」と小林氏。
宮本氏は、面接は可否の判断では無く「ここでどうしたいか」を応募してきた人に教えてもらう場にしていると言う。面接は5時間ほどかかる事も多いそうだ。
「面接で企業に『選ばれた』と思うと、働く方もどこか他人事になってしまう。暮らし方と働き方はイコール。働く場所は暮らす事と直結する、それが分かって働く場所として選んでくれる人が増えてきている」