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HIGUMADoughnut オーナー 春日井 順 氏/ 熱意と試行錯誤が生み出す独自のビジネス

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HIGUMADoughnut オーナー 春日井 順 氏/ 熱意と試行錯誤が生み出す独自のビジネス

HIGUMADoughnut オーナー 春日井 順 氏/ 熱意と試行錯誤が生み出す独自のビジネス

むすぶ しごと LAB.は、第一線で活躍する経営者や専門家をお招きして自分らしい仕事のつくり方や働き方のヒントを探る実践的な学びと交流の場です。2025年の第5回講座では、HIGUMADoughnut(ヒグマドーナッツ)オーナーの春日井順さんにご登壇いただきました。北海道発のクラフトドーナツブランド「ヒグマドーナッツ」は、春日井さんがデザイン会社を経営する傍らで立ち上げたビジネス。デザインと飲食という異業種がなぜ融合したのか。常識にとらわれない発想や、好きを追求すると同時に展開するビジネス戦略について探ります。

デザイン会社からドーナッツ屋へ

春日井さんは北海道室蘭市の出身。大学に進学するタイミングで北海道を離れ、上京しました。就職に向き合ったとき「自分のエネルギーが向くところ、興味が湧くことってなんだろう」と3ヶ月間アメリカへ。その後、カナダへも留学。農家に労働力を提供する代わりに食事や寝床を提供してもらう仕組み「Willing Workers On Organic Farms(WWOOF)」を利用して有機農場で働いたそう。帰国後は、クリエイティブの仕事をしている友人とともにデザインやブランディングを主とする会社を設立しました。

デザインやブランディングを手がける中、仕事に面白さを感じていた一方で「お客様がいて、初めて発注がくる」と他者の仕事に依存しているようにも感じ始めたという春日井さん。「お客さんに自分たちが作ったものやサービスを直接提供して、その目の前にいるお客さんに『美味しかった』とか『楽しかった』って喜んでもらって、また来てもらえるようなビジネスをしたい」と新しい挑戦に目を向け始めました。

春日井さんは「経験があるかどうかは置いておいて、やろうと思えばなんでもできるんだけど、でも自分がずっとそれを続けていくことや誰かに対して強いエネルギーやメッセージを届けられて、自分の中に何かつながるものでないと、僕にはできないな」と当時考えていました。

「自分には何ができるんだろう」「何が面白い、楽しいと思えるんだろう」と考える中で浮かんだのは、地元・北海道の風景。春日井さんは、東京やカナダで過ごす中で、北海道では当たり前にあるものや見ていた景色の「すごさ」を実感してきました。「地元の人は、当たり前過ぎて何に価値があるのか分からないもの。外に出てやっと分かることってある」と春日井さんは話します。

当たり前にあるものだからこそ、価値を低く見積もってしまうケースがあるそう。例えば、福岡の名産品である辛子明太子の原材料はスケトウダラの卵巣ですが、その9割が北海道で水揚げされたものだそう。北海道でつくった原材料が、ほかの地域で加工することによって何倍も価値を高めているという事実から、「北海道は原材料としか考えられていない面があるのでは。なら、価値をつけられれば良いんじゃないか」と考えるようになりました。

「北海道はずっと景気が悪いと言っている人もいるけれど、もっと面白い見せ方をすることで、北海道の生産者や店にちょっとでもお金が落ちるようなビジネスができる。そんなビジネスをやりたいと思って始めたのが『ヒグマドーナッツ』」(春日井さん)

ドーナッツがまちのハブに

春日井さんにとって、ドーナッツ屋は目的ではなく手段。「ドーナッツ屋をやりたかったのではなく、北海道の食って素敵じゃん面白いじゃんって伝えるビジネスとしたかった」と語ります。

最初に思いついていたのは、東京に北海道の海鮮や肉などを扱うマーケットを作ることだったそうです。しかし、「いきなりそのようなことをするノウハウもお金もない」と発想を切り替え、「まず1個、めちゃくちゃ美味しい北海道のものを作って旗を立てよう」とドーナッツに着目しました。

春日井さんが、あえてドーナッツという商品を選んだ理由には、カナダでの経験が原点にあります。カナダでは、甘いドーナッツと熱いコーヒーが街中のつながりを生み出している光景をしばしば見かけたそう。春日井さんは「近所の人たちが集まって『そういえばお前の息子はどうしてる?』みたいな会話が生まれていて、カナダでは、ドーナッツとコーヒーが街のハブのような存在だった」と当時を回顧。「この街にこんな店があったらいいなって思ってもらえるような、コミュニケーションツールになったらなって思ったんです」と語ります。

実際にヒグマドーナッツには地域で暮らす人たちが訪れます。「プールを頑張ったから、ご褒美にヒグマドーナッツを買おう」という親子の声が聞こえることもあるそうで、春日井さんは表情をほころばせます。表面的な流行を追って「短期間で消費されるようなブランド」ではなく、子どもや孫と一緒に通い続けたくなるような店づくりを目指します。

熱量や共感で広がる販路

北海道の原材料を使ったドーナッツの開発への道のりは決して平坦ではありませんでした。「食べることは好きだけど、実は甘いものが苦手」という春日井さんは、必要な材料やレシピを知ることから始まり、パン屋へドーナッツの作り方を学びに行くことまでしました。目指したのは、過剰な味付けやコーティングをせず、素材の良さを伝えるシンプルな商品です。

こうして約1年の試行錯誤の末に完成したのが、北海道の食の素晴らしさをそのまま乗せたようなドーナッツ。「ヒグマドーナッツはプレーンが一番美味しいんです」と春日井さんは笑顔を見せます。
販売を開始したのは2014年。当初は実店舗を持たず、野外フェスや青山ファーマーズマーケットへの出店のみでした。出店するうちに「おいしいドーナッツがある」と評判になり、「店舗はないんですか?」と問われることもあったそうです。そこで考えたのが「イベント時ではなく日常になったときに、どのくらいの人がドーナッツを買いにくるのか」ということ。イベント会場は、食への関心が高く、何かを購入しようという意識が高い人たちが多い場。「(街中で反響があるか)本当に分からなかった。わからないからやってみるしかないってこと」と春日井さんは行動に移します。
そうして2016年、東京・学芸大学駅近くに1店舗目をオープンしました。店舗はデザイン会社の事業の一つとして構えました。5坪の物件をDIYで店舗に改装。融資も受け、赤字でも耐えられる期間を設定し、その時期までに軌道に乗らなければやめると決めた挑戦でした。実際にオープンすると、すぐに評判のドーナッツ屋に。広告に頼らず口コミといった熱量の連鎖で販路を広げ、イベント出展やアパレルや観光業などとのコラボも展開することで、販路を拡大してきました。春日井さんの店づくりには、デザイン会社で培った経験やノウハウが生かされています。

2018年にオープンした表参道店は、コーヒー店との共同店舗で、海外からの客が多いのが特徴。建築物を再生させるプロジェクトの一環で、建物のオーナーから「まちと建物をつなげるような場にしたい」というオーダーから始まったそう。春日井さんは「無理に事業を広げるのではなく、共感を求める場所としてやってよかった」と話します。

続けていくための仕組みづくりを

事業について「続けることが一番大変で重要」と春日井さんは強調します。北海道に暮らしの拠点を移したという春日井さん。東京の店舗を見て回ることが難しくなったことで、春日井さんが店頭にいなくても店が回る仕組みづくりや人材育成に力を入れるようになりました。

春日井さんは、ヒグマドーナッツが大切にしてきた世界観や接客の心構えを伝えるためにも「自分の熱量や想いを伝えることが必要。週1回の定例会をオンラインでもやるようにして、言葉を尽くすようにしています」と話します。今は、春日井さんの考えを8割ほど理解できているスタッフが店舗にいて、そのスタッフが他のスタッフにヒグマドーナッツが大切にしていることを伝えているそうです。価値観を100%共有することは難しくも、その精神は受け継がれています。
野外フェスでは2000個のドーナッツを売るというヒグマドーナッツ。屋外で2000個ものドーナッツを売り切ることを可能にしたのは、日々の積み重ねや試行錯誤を突き詰めた結果。「それができるチームは僕らしかいないと思うんです。同時に誰もやろうとしない」と独自の事業を創造できるわけを話します。
「絶対できないと周りから思われていたとしても、『自分が心から良いと思ったこと』や『やるときめたこと』を信じて貫く。それが結果的に常識を変えていくのかもしれない」。
春日井さんは自分らしい仕事を生み出す過程をこう