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株式会社ReBuilding Center JAPAN 東野唯史氏/ 地域資源のリユースから広がるエリアリノベーション

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株式会社ReBuilding Center JAPAN 東野唯史氏/ 地域資源のリユースから広がるエリアリノベーション

株式会社ReBuilding Center JAPAN 東野唯史氏/ 地域資源のリユースから広がるエリアリノベーション

むすぶ しごと LAB.は、第一線で活躍する経営者や専門家をお招きして自分らしい仕事のつくり方や働き方のヒントを探る実践的な学びと交流の場です。2024年の第4回講座では、古民家などから古材や古道具、持ち主の想いをレスキューする「株式会社REBUILDING CENTER JAPAN」代表取締役の東野唯史さんにご登壇いただきました。

株式会社ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)は長野県諏訪市を拠点とし、廃棄されゆく空き家の木材などを再活用する「レスキュー」活動で、地域資源のリユースをする会社です。取り組みはレスキュー活動にとどまらず、空き家と空き家を活用したい人をマッチングする事業や、まちを丸ごと活性化するエリアリノベーションにも繋がっています。全国で同じ志を持つ人たちに向けたスクールも開催し、そのネットワークは広がりつつあります。そんな取り組みを展開する東野さんの原点は「デザインで世界を良くする」。信念を胸に地域と向き合ってきたリビセンと東野さんのストーリーをお伺いしました。

日本や世界を巡り、フリーランスのデザイナーへ
高梨さんは、1984年生まれ。名古屋市立大学芸術工学部で建築デザインを学び、都内の会社に就職。多くの展示会のブースデザインなどを手掛けてきました。一方、大学時代の教授からの「お前らはデザインで世界を良くしろ」という教えを振り返り、社会の課題を知りたいと、世界旅行に挑戦します。
世界の旅から帰った後、フリーランスのデザイナーとなり、リノベーションプロジェクト「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」に参加したことが転機になります。ここでは、デザイナーも大工仕事もする特殊な環境だったそう。また、デザイナーや大工、施主も同じ熱量でプロジェクトを進めていくという現場の空気感に刺激を受けました。
また、ここでの経験では「いい店を1軒がんばって造ると、その店を中心にまちも良くなっていく」と気付いたそうです。「デザインで世界を良くする」方法が、少しずつ見えてきました。

下諏訪への移住とリビセンの設立
フリーランスのデザイナーとして全国で空間づくりに駆け回るようになった東野さん。仕事での関係で、解体現場に出くわすことが多かったそう。費用面で、ホームセンターで材料を交購入するより、解体現場で古材を譲ってもらうこともあったそう。
東野さんによると、日本の空き家数は計1900万軒で空き家率は13.8%。空き家の解体に伴って廃棄される木材は8万5000トンに上るそうです。
毎年、大量の古材が廃棄される一方、「僕らみたいに古材が欲しい人って世の中にいるはず。地域資源である古材が巡回することで、ゴミだったはずの物で雇用を生み出すビジネスモデルを作れるのではないか」と古材が手に入る場所の設立に乗り出します。
こうしてリビセンを構想したのが2015年。翌年にはオープンします。

解体現場でレスキューする古材と家主の思い出
「世の中に捨てられた物に価値を見出し、もう一度世の中に送り出し、次の世代につないでいくことをレスキューと呼びます」
リビセンのレスキュー活動では、解体される建物から古材を買い取り、リビセンに持ち帰ります。特徴は、引き取ったものを丁寧に並べ、値段を付けること。古材を次の利用者へつなげることでレスキュー活動は達成されます。
引き取ったものが売れ残り、やはり捨てることにならないよう、売り場をしっかり整えます。また、レスキューへ行く範囲も車で大体1時間程度で行けるエリアに絞り、無理のない運営に気を配っているそうです。
レスキューの依頼は、多くは家主から直接の声掛け。家主は一度、リビセン内で販売しているものを下見し、買い取ってもえらそうと感じたときに店員に声掛けをするそう。このような流れで依頼を受けることができるため、「お店を持っているのが大きい」と東野さんは分析します。
レスキュー活動の実践で気付いたのは、「所有者の心もレスキューしている」ということ。「みんな壊したくて壊していない」と東野さん。所有者たちは、建物の後継者がいないために「泣く泣く」解体を依頼しています。そんな時、「解体屋さんでぐしゃぐしゃに潰すのではなく、僕らが一枚一枚丁寧に剥がしている現場を見てもらう」ことで、これまでその建物で暮らしてきた人々の心の痛みも和らぐそう。
レスキューでは、釘も回収する丁寧さ。「それで救われたと言っていただくことも多く、受け取った気持ちをどうやって次につないでいくかも大事だと思います」(東野さん)
レスキューした古道具は、レスキューナンバーで管理。お茶碗やお猪口など、一つとっても「どこでレスキューされたものか」直ぐに分かるようになっています。また、「レスキューレター」という取り組みも展開。思い入れが強いモノについては、そのモノに関わるストーリーを綴った「手紙」と一緒に手放してもらうそう。モノと手紙を買い取った客は、元の持ち主の想いを知り、手紙に返事を書くこともできます。
また、買い取りについては、「他の古道具屋さんに『お先にどうぞ』という精神でやり、売れ残ったものを買い取るスタンスでやっています」。全体のレスキュー量を増やすことが目的のため、他の業者で買い取ってものは他の業者に「レスキュー」を任せるそう。こうすることで、競って買い取りする必要がなくなり、スタッフも精神的に余裕を持てるそうです。
古い文化を今風にアレンジする
コンセプトは「rebuild new culture」。
「僕らがやっていることは、新しいことをするのではなく、もともとある文化を今なりにアレンジして伝えていくこと」と東野さんは話します。
リビセンには、古材や小道具の売り場のほかにカフェも併設。「複数の事業を組み合わせることで、お互いの事業の連鎖反応が生まれるようにすることを意識している」と東野さんは説明します。
このほか、ワークショップの開催や古材を使ったオリジナルのプロダクト、断熱リノベーション事業など幅広い事業を展開しています。
また、東野さんはレスキューを続ける中で「空き家情報を集まってきた」と強調します。集まった情報をもとに「貸したい」「売りたい」と考えている家主さんと、その地域で新事業を始めたいと思っている人をマッチングさせることもできるように。個人事業主として全国の建築に関わってきた東野さんは、その経験を活かして新事業の事業計画をチェックしたり金融機関を紹介したりとサポートも行っているそうです。
これまでに、空き家をリノベーションした複合施設やカフェ、雑貨屋、花屋などの開業をサポート。それぞれリビセンから徒歩3分ほどの近さにあり、歩いてまちのお店や街並みを楽しめるようになっています。
また、ハード面の整備だけでなくソフト面の装置も提案。街でタンブラーをシェアする「ブラブラタンブラー」という企画は、不要なタンブラーを使って観光客や地域住民が街中の店を「ハシゴ」して回る仕掛け。新規の事業者だけでなく、地元の事業者とも一緒になって実施しています。ハードとソフト両面の取り組みが地域の活性化を後押しします。
東野さんは「僕らの設計と関わりなく、このエリアの可能性を見出してもらえている」と街全体を分析。同地域では、ここ5年で30軒が新しく開業したが、半数はリビセン以外の事業者が手がけたもの。
「リビセンがつくった街と見られるのではなく、なんかあの場所が楽しいよねって感じになり、みんなで盛り上げていくような雰囲気」と手ごたえ。下諏訪で、「面白そうだから」「楽しいから」とみんなでエリアを盛り上げていく機運が醸成されています。

古材のレスキューから始まったリビセンは、まちの人の心をレスキューし、街を丸ごとレスキューする会社に育っています。
リビセンでは、サポーターズやスクールの受講生も募っています。サポーターズは、全国の建築を学ぶ学生や子どもなど誰でもリビセンに関われる取り組み。スクールでは、本気で自分の事業としてリビセンをやりたい人たちが集まります。
これまでのノウハウをオープンソースにすることで、レスキューは“世界”に広がりつつあります。