REPORT
現代美術作家 加賀美健氏/ 好きを仕事にする人の働き方
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現代美術作家 加賀美健氏/ 好きを仕事にする人の働き方
むすぶ しごと LAB.は、第一線で活躍する経営者や専門家をお招きして自分らしい仕事のつくり方や働き方のヒントを探る実践的な学びと交流の場です。
2024年の第3回講座では、現代美術作家の加賀美健さんにご登壇いただきました。
「はたらきたくないひとのはたらきかた」という衝撃的な演題の本講義。ジョークをアートに変える加賀美さん。
目の前に広がる光景や社会、仕事相手でさえ面白がるスタイルで、作品を生み出してきました。
そんな加賀美さんが、働いているときに考えていることや仕事のスタイルなど聞きました。
スタイリストから芸術家へ
加賀美さんはスタイリストのアシスタントからアーティストの道へ進みました。アーティストとして作品を売るためには、基本的にギャラリーへ所属するそう。
ギャラリーは、タレントのエージェントのような役割で、作品の売買や展示会のサポートなどをします。
美術大学を経ずに美術の世界に飛び込んだ加賀美さんは「コネクションはマイナスからのスタート。だけどアートは好きで、アートの勉強や知識を吸収することはしていました」と当時を振り返ります。
コネクションがない中でギャラリーに所属するため、最初は作品を持ち「突っ込みで、自分から行動した」そうです。

加賀美さんはアパレルなどの企業とのコラボも多数実現してきました。これまでにZOZOTOWNやBIRKENSTOCK、NIKEなど名だたる企業と仕事をしてきました。
その作品の特徴は、コラボ相手の企業に対してもジョーク的な発想でアートにするスタイル。出会ってしまえば、思わずクスッと笑ってしまうものばかりです。
クライアントから「真面目にやってるのか」とツッコミが入らないのかとふと心配になってしまいますが、もちろん企業側は「分かって依頼している」そうです。
加賀美さんだから依頼される仕事に向き合う際は、その期待値を超えていくのに心を砕くそう。ジョークが滑らない「絶妙なライン」を追求します。
加賀美さんが仕事をする時間は「大体午前中」。早いのは時間帯だけでなく、依頼された仕事に取り掛かるまでの時間も。「早いと打ち合わせが終わってスタジオに戻ったときにはラフとかを書いています」。
とある作品については「10秒くらいかかりました」と冗談っぽく紹介する加賀美さん。作品を描く時間は刹那なこともあります。「基本的に僕のやった仕事に対して俺でもできるって言われるんです」。
そんな誹謗中傷も「書き込みをした人も多分作品になっちゃうから気をつけないと。プリントして額装して飾っちゃうと作品になる」とその状況すらもアートに変えてしまいます。
「あんまり早いと考えてないみたいになるから」と冗談交じりに話しつつ、「スタジオの床に全部並べて、ちらちら目に入るたびに『これ違うな』とかやりとりしています」と制作について紹介。
「このやりとりが重要」と1〜2週間この作業を繰り返し、作品を完成させるそうです。
丸ごと作品の「ストレンジストア」
36歳で「ストレンジストア」をオープンしました。古いアパートにある3階の一室を丸々使った店。アパレルや風変わりなグッズが並んでいます。
室内には非売品も多くありますが、店が丸ごとアート作品なので、店ごと購入することで手にいれることができるそうです。
始めたきっかけは、古着を見て回っている際に、4畳半ほどの狭い空間でお店をやっている若者を見かけたこと。
「割と自由にやっていて、ああ良いなと思って。雇われてたらできない」と店づくりを考え始めました。また、「やれば人も集まって、新しい出会いがあるかな」という思いもあったそうです。
営業は好きなタイミングでやっており、営業日はInstagramで発信しています。店を見たいというダイレクトにメッセージが来ると、「今から自転車で行って開けるから、3時半に来れる?」などとやりとりをしているそうです。
はたらきたくない
「はたらきたくない」。ど真ん中にそう書かれたTシャツがあります。これも加賀美さんの作品の一つ。これは、Tシャツの主張とは裏腹に、バリバリと働いている人しか着られない(働いていない人が着用すると、ただのヤバい人になるため)コンセプチュアルアートです。
「はたらきたくない」というワードに着目したのは、ストレンジストアで会った若者との会話がきっかけ。
「加賀美さんのようにアートを仕事にするにはどうすれば良いですか?」とよく聞かれるそう。加賀美さんはそんなとき「10年くらい続けると11年目から仕事が来るかもしれないよ」と答えるようにしているとのこと。しかしある日、「3ヶ月くらいで何とかなりませんか」と返されました。そんな若手の「はたらきたくない」という感情に面白さを感じ、働いている人しか着られないTシャツをつくったそうです。
「いいね」の多さは危険信号
「みんなに共感されちゃうと面白くないじゃないですか」と加賀美さん。SNSでの投稿では、自身が気に入ったポストほど「いいね」が付かないもの。逆に「いいねが増えてきちゃったら危険信号。
じゃあちょっと視点を変えようかなとなります」と話します。
また、流行りには寄らないようにもしているそう。「トレンドが終わった時に一斉に終わるのが怖い。時代に乗せた方が仕事がくるでしょ、でも僕みたいなやり方は時間がかかる」と加賀美さんは一歩引いて流行を見ます。

独自のスタイルを続けてきた加賀美さん。
ずっとやり続けることで「定着する」と加賀美さんは語ります。
「最初は馬鹿にしてきた人たちも、続けていると認めてくれるようになるというか、馴染んでくるというか。自分の中で基準をつけながら、それをちゃんと続けていくと繋がってくるものもあるんです」
仕事を獲得するためのスタイルとして、自分から営業はしないという加賀美さん。とにかく「待つ」と話します。また、仕事を受けるかどうか決める際の基準については「受けたい仕事だったら、すぐに返事をしている」と語ります。

欲しいものは落ちている
大事にしていることとして「下を見る」と加賀美さん。「あんま上を見ない。何を踏んでいるかっていることを見ている」と語ります。
加賀美さんの娘さんが小さい頃、娘さんは目線が低いこともあり、加賀美さんの琴線に触れる面白いものをたくさん見つけていたそう。
送迎をしているときも、下を見て歩いており、娘さんが「パパ、やばいもの落ちてたと」と言うと、帰り際に写真を撮っていたそう。
キャップやスニーカーなど欲しいと思ったものは、落ちていたことがあるそう。加賀美さんは「本当に欲しいと思うものは、落ちている」と意味深に語ります。
ちなみに、加賀美さんにとってこの日面白かった出来事は、野口さん(進行)の頭に大きなバンドエイドが貼ってあったこと。加賀美さんによって「実家に帰れ」と書き込まれ、アート作品になっていました。
